説教ノート No.30 2023.10.29
聖書箇所 ローマ人への手紙12章1節~2節
■序 論
これまで学んだローマ人への手紙11章までの主題は、私たちが信じている内容について体系的に論じられた、いわゆる「教理」であった。そして、12章以降は、キリストを信じる者が、自分が生き、生活するこの社会にあってどう生きるかを教える「実践・倫理」の部分である。信仰はこの両面のバランスがとれてはじめて成熟に向って成長できると言えよう。私たちにとって自身の聖化の途上において必須の学びである。
■本論1 神に献げる大前提 (12:1a)
先ずパウロは、これまで語って来た「教理」から、いかに生きるかについて「実践」へと論を進めるに当たって、キリスト者の生き方の基本となることを「献げなさい」という言葉で表現している。私たちはこれを「献身」という言葉に置き換えて受け止めようとしているが、その意味するところは何であろうか。テキストを読むと「献げなさい」が強い命令形で勧められていることから、「献身」は救われた者が神に対してなす最も大切な行為であり、それは礼拝であり、信仰生活そのものであることが分かる。パウロはこの献身の勧めを「神のあわれみによって」という言葉から始めているが、献げる資格は人間の側にはなく、あくまで「神のあわれみ(慈愛)」が大前提であることに注目しなければならない。小さく卑しい者が自らを献げようとする決意を、神がその慈愛によって受け止めて下さるからこそ「献身」は成り立つのである。また献身と言うと一切を失うかのように誤解されるがそうではない。すべての祝福の基礎であることを忘れてはならない。しかもパウロは「勧めます」と語り献身を強要してはいない。あくまで自発的に、喜んで献げるものを神は喜ばれるのである。
■本論2 自分自身を献げよ (12:1b)
次にパウロは、献身の内容について語り、献げるものは「あなたがたのからだ」であると教える。大変意味の深い表現であると言えよう。これは単なる肉体のことではなく、全身全霊すなわち私たちの全存在のことである。それではどのように献げるのか。それは「神に喜ばれる、聖なる生きたささげ物として」であると説明されていることに注目しよう。実は、これは旧約祭儀における「燔祭(はんさい)」「全焼のいけにえ」のことであり、この献げ物には傷の無い羊が求められた。同様にして私たちはこれらの条件を自らに満たすことが出来るだろうか。否である。それはあくまでキリストの十字架の贖いによってのみ満たされるもので、私たちは信仰によってのみそれにふさわしい者にさせられるのである。さらにパウロは、このキリストの十字架によってはじめて可能となり、意味あるものとなる私たちの全人格的な献身を「それこそあなたがたにふさわしい礼拝です」と説明している。第三版訳はこの「ふさわしい」を「霊的」と訳しているが、これは神秘性や雰囲気を表す言葉ではなく「合理的、理にかなう」の意味を持つことにも注目したい。救われた者が全身全霊をもって自らを神に献げる生活そのものが礼拝なのである。私たちの生き方や日常生活の在り方に対して示唆に富んだ説明と言えよう。
■本論3 流されず輝け (12:2)
最後にパウロは、神への献身が私たちを霊的刷新へと導くことを教えている。これには二つの側面があり、一つは否定的側面で「この世と調子を合わせてはいけません」と勧められる。これは罪に支配された世に妥協し流されないでキリストを鮮明にせよという意味である。私たちは世離れした生活をするのではなく、罪の世にプロテストしていくものでありたい。二つ目は積極的側面で「心を新たにすることで、自分を変えていただきなさい」ということである。これを第三版訳では「心の一新によって自分を変えなさい」と訳しているが翻訳の違いのニュアンスをより正確に捉える必要がある。「心を新たにする」「心の一新」は、自らの悔い改めによる方向転換のことであり、私たちは自身の努力を越えた聖霊の力によって変えていただくのである。こうして内面的変化、霊的変貌へと導かれ、何が神に喜ばれるかを第一に求める心へと刷新されていくのである。まさに日々キリストの御姿に似せて変えられていく聖化の歩みそのものと言えよう。これが私たちの神への献身の歩みである。私たちも自身の信仰生活の日々を神の栄光のために生きて行きたいものである。
■結 論
私たちが信仰によって救われたその時から神への「献身」の歩みはスタートしている。神の栄光を現わすために私たちの人生の目的と日常生活があるとは何と大きな光栄だろう。しかもそれは神礼拝そのものである。私たちの生涯が神と共にあり、私たちのなす全てのことが神礼拝に直接繋がっていることを覚えて生活したいものである。主よ。今、私は私自身をあなたに献げます。この決意を新たにします。この私を用いて下さい。
■御言葉に対する応答の祈り
①神の栄光を現す献身の人生を歩めるように。
②世に流されず聖霊によって力強く生きれるように。
■次回説教
聖書箇所 ローマ12:3~8
説教題 「教会の献身」
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