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「ビジョンに向かって」

説教ノート No.38                      2024.6.2

聖書箇所 ローマ人への手紙15章14節~33節


序 論

 パウロはこれまでキリスト者が何を信じ、何を告白するか、その内容である「教理」と説き、さらにキリスト者が如何に生き、どのように生活するのか、つまり「倫理」について語って来た。そして、この手紙の筆を置く前に彼はこれまでの伝道生活を回顧しつつ、今後の計画について、窮乏するエルサレム教会に援助金を届けて後、ローマへ上り、さらに地の果てイスパニアにまで赴きたいと語っている。彼の目前には未踏の世界が広がる。


本論1 祭司の務めを果たす (15:14-21)

 先ずパウロは、ローマ教会の信徒たちが霊的にも、知的にも、実践的にも成長・成熟し、キリストのみからだなる教会エクレシアの形成を願いつつ、自分自身に及んだ神の恵みと与えられた使命について語っている。それは16節に「私は神の福音をもって、祭司の務めを果たしています。」と告白しているが、この「祭司の務め」という言葉に要約されている。「祭司」には「橋をかける者」の原意があり、人間の罪のゆえに断絶した神との関係に橋渡しをする務めのことである。ユダヤ人キリスト者の一人であるパウロは、異邦人即ち他の民族に十字架の福音を宣べ伝えることで「祭司」の務めを果たし、和解の福音の実が結ばれて来たと言えよう。もちろん使徒の働き、パウロの獄中書簡、牧会書簡を見ても、その過程は決して楽なものではなく困難の連続であったと言っても過言ではない。しかし、彼ははっきり「御霊の力によって、それらを成し遂げてくださいました。」と言い切っており、彼の謙遜と力の根拠を知ることが出来る。私たちが意識すべきことは、伝道の働きも、福音の前進も、聖霊なる神の御業によることを再確認し、万人祭司の務めを果たすべしと決意を新たにすることである。


本論2  エルサレムからローマそして地の果てイスパニアへ (15:22-29)

 次に、パウロは今後の伝道計画のビジョンについて22節で「まず、しばらくの間あなたがたとともにいて心を満たされてから、あなたがたに送られ、そこ(スペイン)へ行きたいと望んでいるからです。」と語っている。その計画の第一は、先ずローマ訪問。彼は未伝地への宣教の情熱に燃えていたが、世界の都ローマを拠点として全世界に福音を拡大させる戦略を立てその人脈を得ようとしたのであろう。第二は、ローマへ行く前に東へと向かいエルサレムを訪問すること。それは飢饉窮乏に苦しむエルサレム教会を助けるためにマケドニアの諸教会が献げた援助金を届けるためであった。パウロの母なる教会への深い愛情と、教会間の愛の姿を教えられる。第三は地の果てイスパニアを目指す宣教のビジョン。これまでローマより東方を中心に伝道した彼は、福音の空白地帯である西方を見つめたのである。世界宣教と開拓伝道のスピリットを決して失わなかったパウロの宣教者・証し人としての姿に心動かされる思いである。私たちも勇気づけられ、奮い立たされて同じ務めに励む者でありたい。神はこの私たちをも同じ器として用いて下さる。


本論3  祈りの要請と祝祷 (15:30-33)

 最後に、パウロはとりなしの祈りをローマ教会の兄弟姉妹たちに切実に要請している。「私がユダヤにいる不信仰な人々から救い出され、またエルサレムに対する私の奉仕が聖徒たちに受け入れられるものとなりますように。」(15:31)という言葉に、彼の前途に様々な困難や激しい迫害が待ち受けており(その事実が使徒の働きに詳細に記されている)、それをパウロが察知していたことが分かる。そこで心と思いを一つにするローマ教会の兄弟姉妹が祈りによって支え共に戦ってくれるように懇願したのである。これは決して意気地なしの言葉ではない。信仰と宣教、そして、教会形成の業は、共に祈り励まし合う共同戦線によって推進され、実を結び、勝利へと導かれて行くのである。私たちも日常の信仰生活、教会生活において、互いにとりなし祈り合うことを大切にし、それが大きな力となることを体験して行きたいものである。このことへの無関心や孤立は無力と失速につながることも意識する必要がある。祈りを怠ってはならない。そして最後に、パウロは万感の思いを込めてローマ教会と兄弟姉妹のために祝祷を捧げている。「どうか、平和の神が、あなたがたすべてとともにいてくださいますように。アーメン。」(15:33)と。神の確かな臨在こそ全ての祝福の源である。私たちに平和の神が与えてくださる平安が、何時でも、何処でも、どんな状況でもあることを共に感謝しよう。シャローム。


結 論

 パウロはその道程において常にビジョンを仰ぎ、それに向かってひたむきに前進し続けた。伝道者として聖化の途上を歩む彼の姿は私たちにとっても大きな模範であり励ましでもある。彼の心の中には「神はみこころのままに、あなたがたのうちに働いて志を立てさせ、事を行わせてくださる」(ピリピ2:13)との確信がしっかりと刻まれていたに違いない。私たちも将来の幻をしっかりと見つめ、希望を抱いてひたむきにそこに向かおう。

 

御言葉に対する応答の祈り

福音の祭司として仕えることができるように。

教会がビジョンを仰いで前進できるように。   

 

次回説教

 聖書箇所 ローマ16:1~16

 説教題 「愛する同労者へ」


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