説教ノート No.9 2023.1.29
聖書箇所 ローマ人への手紙4章1節~12節
■序 論
罪人の救い(赦し)に関するパウロの主張は、「行いの原理」ではなく「信仰の原理」、すなわち神の救いがキリストの十字架に基づく贖いによるものであり、それを信じる者にはその信仰によって与えられるということであった。この「信仰義認」こそ、聖書教理の中心であり、私たちが罪赦され、神の救いを得るための唯一無二の根拠なのである。
■本論1 アブラハムの事例 (4:1-5)
パウロはここで「信仰義認」の教理について論理だけでなく、アブラハムの実例をもって説明している。古来ユダヤ人のアブラハムに関する理解は、創世記26:5「アブラハムが わたしの声に聞き従い、わたしの命令と掟とおしえを守って、わたしへの務めを果たしたからである。」を根拠にして、彼が律法を守り行い、様々な誘惑に勝ったから神の前に正しい者とされ「義」と認められたというものであった。このユダヤ人の民族的理解に対して、パウロは創世記15:6の「彼は主を信じた。主はそれを彼の義と認められた。」を引用して、人の善行が神の義認や祝福の根拠では決してないことを強調したのである。ではアブラハムはどのようにして義とされたのか。注目すべきは「アブラムは神を信じた。」ということ以外に、彼が義と認められる条件について何もないということである。しかも、創世記を見るとアブラハムの信仰が決して感情的なものではなく、神の約束を信じる信仰、すなわち契約に基づく信仰であることが分かる。この事例を私たちに適応してみると、私たちの救いの根拠はあくまで神の側にあり、神の御言葉の約束に基づいていることが確認されるである。
■本論2 ダビデの事例 (4:6-8)
さらにパウロはダビデの事例を上げて信仰義認について説明を進める。それは「幸いなことよ、不法を赦され、 罪をおおわれた人たち。幸いなことよ、主が罪をお認めにならない人。」という詩篇32篇の引用からであり、ここには①自分の犯した罪の重さと深さを痛感し、それに自らの力で何の解決を得られないことを訴える魂の叫びと、②悔い改めて告白する者には神の側から罪の赦しが与えられることが記されている。まさにダビデ自身の悔い改めの表明と、彼の信仰告白の言葉である。人間は犯した自ら犯した罪を自分の善行との差し引きにおいて清算することはどんなに努力しても決して出来ない。むしろ、その人の心の内面において良心の責めが大きくなるだけである。魂の平安は決して得られるものではない。しかし、32篇の引用のごとく、自分の罪を神の前に告白して悔い改める者を神が赦し、義と認めて下さるのである。そこに平安の回復、魂の救いの成就があると言えよう。もちろんダビデはキリスト以前の者である。しかし、心を素直にして神に信頼する「信仰」はキリストを仰ぐ信仰と同質のものであり、神はこれを良しとされたのである。 これも前述した「彼は主を信じた。主はそれを彼の義と認められた。」というアブラハムの信仰と同じと言えよう。
■本論3 信仰義認と割礼 (4:9-12)
最後に、パウロは信仰義認と割礼との関係について論じている。パウロの問いかけは、信仰義認の恵みは割礼を受けた者に限定されるのか否かというものである。もちろん言うまでもなく、救いが律法の行いによらないのと同様に、割礼も信仰義認の条件ではないと言うことである。このことは創世記15:6に記されているアブラハムが神に義と認められた義認体験が、彼の割礼以前であることからも裏付けられると言えよう。それでは割礼とは何なのか。11節には信仰によって義と認められたことの『証印』『しるし』と説明されている。つまり内面的な救いの事実を外面的に表す「しるし」である。では律法や割礼と直接関わりのない異邦人にはどうなのか。パウロはこれをすでに2:29で「こころの割礼」として普遍している。割礼の原意は「切り捨てる」であるが、ユダヤ民族もその他の民族も、全ての人が神の前に悔い改めて古き自我を捨て去り、十字架を信じる者を、神は「義」と認めて下さり、罪の赦し、死と滅びからの解放を宣言して下さるのである。私たちもこの割礼の本質的意味を自分自身のこととして捉え、真摯に悔い改めの招きに応え、信仰義認、恵みの信仰に生きる者となろう。
■結 論
これまで信仰の父アブラハムとイスラエル傑出の王ダビデに信仰義認の実例を見てきた。どんなに高潔な品性を備えた人も神の前には罪人である。善行を積んで自らを「義人」と自己評価しても虚しさに回帰していくだけである。この私たちを「義」に導くために神は主イエスの十字架を示されたのである。それは信仰によってのみ与えられる。
■御言葉に対する応答の祈り
①信仰義認の事実とその恵に感謝しよう。
②心の割礼によって主を仰ごう。
■次回説教
聖書箇所 ローマ4:13~25
説教題 「祝福の約束」
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