説教ノート No.33 2024.1.28
聖書箇所 ローマ人への手紙13章1節~7節
■序 論
パウロは、12章で教会における愛の実践を説いた後、13章から一転して視点を教会の外に向け、社会との関わりについて語っている。キリスト者は天の国籍を持ちつつ、この世にあって生き、社会生活を営む者である。そこでは必ず国家や為政者との関係がどうあるか問われることになる。地の塩、世の光として生きることを期待されている私たちも、この視点がどうあるべきかについて聖書に学び、自分の立場に確信を持つ者でありたい。
■本論1 権威は神からのもの (13:1-2)
先ずパウロが「上に立つ権威に従うべきです。」と勧告していることに注目し、その意味を確認する必要がある。この「上に立つ権威」とは、国家、政府、為政者を表す言葉で、つまりキリスト者も一市民として国家の権威を認め、それに従う義務があるということである。しかも「従う」ことの根拠が、全ての「権威」は神によって立てられたものであるからと説明され、私たちに大切な視点を与えている。もちろんこれはパウロがローマ政府にこびを売る言葉ではない。国家権力が絶対だということでもない。全ての国家は歴史を支配する神によって立てられており、覇権国家ローマ帝国がそうであり、歴史を遡ってエルサレムを滅ぼしたバビロンでさえ神によって立てられたものである。私たちもこの国家観、歴史観の大前提を押さえることが大切である。さらに「権威に逆らっている人は、神の定めにそむいている」(13:2)と続くが、無意味に国家に逆らうことは神の秩序に逆らうことであるとの忠告である。私たちは天に国籍を有する者であり、日本国民(各々の国籍)の一人として憲法を守り国民の義務を果たす社会的責任があることを忘れてはならない。
■本論2 権威の役割 (13:3-4)
次にパウロは、何のために神が国家とその権威を立てられたのかについて教えている。非常に重要なポイントである。注目したいことは4節に「彼があなたに益を与えるための、神のしもべだからです。」とあり、国家の為政者のことを「神のしもべ」と表現していることである。「しもべ」とは「奉仕者」のことで、総理大臣を英語で Prim minister プライムミニスター (最も仕える者)と呼ぶこともからも、神がその権威を付与された意味と目的が良く分かると言えよう。さらにパウロは為政者が神によって立てられた二つの大切な役割を示す。①益を与える働きをする。前述4節の「益を与える」はまさに社会の福祉を意味しており、為政者は自分が「神のしもべ」であるとの自覚のもとに、国家と社会の福祉のために仕えなければならない。それは民主主義における選挙による選出であっても同様で、そこに神の召しと使命があることを見失ってはならない。二つ目の役割は②悪事に対してさばきをもたらす役割である。「剣を帯びる」とは悪に対するさばきの権能を持つという意味であり、国家の為政者(支配者)は神から委ねられた剣の権能によって社会の福祉と安全を守るために悪事を容認せずこれを正当にさばかなければならない。彼らがこの重要な役割を果たせるよう私たちには祈る責任がある。
■本論3 権威に対する良心的服従 (13:5-7)
最後に、パウロはキリスト者が国家の権威に従う動機とその内容について教えている。動機は「良心のために従う」ことである。この「良心」とは、神に対して良いことをなすべきという義務感のことで、善意や道徳・倫理の判断を越えた「信仰的良心」と理解することが出来る。キリスト者として国家の権威に、神への服従と共に従うことが求められていることを軽んじてはならない。続いてパウロは、その具体的内容の一つとして「税」を挙げて納税の義務について論じているが、私たちも一市民としてその義務を果しているが、これも大切な信仰の証しの一つである。ここで特記したいことは、国家と為政者が市民の福祉と安全のために機能せず、人権と信教の自由を侵害する場合には、キリスト者は信仰の良心に基づいて「否」を宣言し、これに抵抗する権利を有するということである。所謂「キリスト者の抵抗権」でプロテスタントの精神でもある。私たちは鳩のように素直であっても「否」を「否」として貫く勇気と信仰を養いたいものである。もしその視点や判断力、実行性を失ってしまえば塩気を失った塩になってしまう。信仰の良心の迫りに誠実に生きて行きたい。
■結 論
主イエスは、私たちのことを「あなた方は世の光、地の塩」と呼んで下さっている。キリスト者は隠遁者、世捨て人ではない。霊的側面ではキリストの福音を鮮明に証しし、社会的側面では市民の義務を果たしつつ、この世にたくましく働きかけて生きるのである。私たちの日常の生活、生き方そのものが神の栄光を現すものであるよう励みたいものである。神の御言葉に教えられ、励まされつつ、今週も自らの聖化の途上を歩み、進もう。
■御言葉に対する応答の祈り
①神の立てた権威に従い義務を果たせるように。
②国と為政者が神を恐れて整えられるように。
■次回説教
聖書箇所 ローマ13:8~14
説教題 「闇深く、陽は近く」
Comments